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大阪地方裁判所 昭和39年(行ク)19号 判決

申請人 南光商事株式会社

被申請人 日本専売公社

訴訟代理人 伴喬之輔 外一名

主文

本件申請を却下する。

理由

本件申請の趣旨及び理由は、別紙一記載のとおりであり、申請人が、本件たばこ小売人指定取消処分について、本案である昭和三九年(行ウ)第六〇号たばこ小売人指定取消処分取消請求事件において主張する取消原因の要旨は、同事件訴状によれば別紙記載取消原因のとおりであることが明らかである。

被申請人の意見は、別紙二記載意見書のとおりである。

そこで、本件執行停止申請について判断するに、まず、申請人が本条につき本件行政処分の取消事由として主張する別紙一記載取消原因一は、これを要するに、製造たばこの小売人(以下「小売人」という。)である申請人が大口需要者であるぱちんこ屋に対して製造たばこの大量小売販売をするに際し、一たん定価販売をしてから、申請人が小売人として取得すべき小売定価の六分に相当する利益のうちから四分ないし五分に相当する金員を購買者に支払つてきたが、これは小売人として当然負担すべき諸経費を購買者が負担してきたからであり、申請人には定価外販売を禁止するたばこ専売法三四条三項に何ら違反しないというものであると解せられる。

ところで、小売人が製造たばこ販売に要する経費として申請人が計算するところは、製造たばこの一個一個を営業所店頭(たばこ専売法三〇条参照)で販売される場合を想定して計上したものであつて、その当否を検討するまでもなく、本件記録添付の疏明資料から窺われるような大量販売の場合に適切な計算でないばかりでなく小売人の営業所から需要者方までの運搬費ないしぱちんこ屋がその店頭で製造たばこを一々客に譲り渡すに要する費用は、もともと小売人の負担すべき経費ではないのである。そうして、本件記録添付の疏明資料によれば、申請人は、大口需要者であるぱちんこ屋に対し小売定価により販売した都度、その直後または遅くとも一ケ月ごとに、あらかじめ需要者と約していたところに従つて小売定価の四分または五分に相当する金員を販売協力費の名目で返戻していたことが一応認められるのであつて、右販売方法は、実質上値引販売と認めるのほかなく、まさしく、たばこ専売法三四条三項に違反するというべきである。

そして、たばこの専売価格は、本来、法律または国会の議決に基づいて定めなければならないとされているところ(財政法三条、日本専売公社法四三条の二三、製造たばこの定価の決定又は改定に関する法律一項、たばこ専売法三四条一項、二項)、このようにして決定された製造たばこの定価について、たばこ専売法三四条三項が小売人に対し定価外販売を禁止する所以のものは(罰則として同法七三条一号)、たばこ等の専売制が国の財政上の重要な収入を図ることを主たる目的とするとともに一般国民の日常生活における必要にも応ずることを目的とし、公共の福祉を維持する制度であることから要求せられるのであつて(最高裁昭和三八年(あ)第三五号、同三九年七月一五日大法延判決参照)、もとより本件のような大口販売の場合にあつてもその例外ではない。

以上のとおりであるから、申請人が主張する取消原因一は、取消事由の認め難いこと明白である。

つぎに、申請人が主張する別紙一記載取消原因二についてみるのに小売人がたばこ専売法三四条三項の規定に違反したときは、同法四三条一項一号および二項によれば、被申請人において、小売人の指定を取り消すか、これに代え、一月以内の期間を定めて製造たばこの販売を差し止めることができると定められ、右処分をするかどうか、処分をするとして指定取消と販売差止のいずれを選択するかは自由裁量事項とされている。

申請人は、被申請人の当局において、小売人に大口販売を勧奨し、これにともなつて定価外販売の行われることも熟知していたから、本件行政処分は裁量権の範囲をこえ、その濫用があつた旨を主張するが、右たばこ専売法四三条一項は、「公社は………小売人の指定を取り消すことができる。」と定め、申請人の前示行為は同法三四条三項に違反するものであるから、本件行政処分は、その裁量権の範囲内でなされているものであり、裁量の範囲をこえた違法はない。また、本件記録添付の疏明書類によれば、かねて当地方において一部小売人がぱちんこ屋同景品たばこの定価外販売をする事実が存在していたけれども、しかしながら、右違反の事実は被申請人の当局の容認するところではなく、むしろ、違反者に対しては指定取消処分をももつて対処していたことが一応認められる。そして、本件行政処分の事由となつた申請人の製造たばこの定価外販売がおよそ一年間に小売定価にして総額二億円余にのぼる程度のものであることは疏明資料から明らかであつて、右申請人の違反事実に対し、被申請人が指定取消処分をしたのは、公平又は比例の原則に反せず、かつ社会観念上著しく妥当を欠く裁量権の濫用であるとは認め難い。

したがつて、申請人が主張する取消原因二もまた理由がないとみられる。

以上の次第であるので、本件執行停止申請は、本案について理由がないとみえるから、その余の判断をするまでもなく、失当として却下すべく、主文のとおり決定する。

(裁判官 山内敏彦 平田孝 小田健司)

別紙一、二〈省略〉

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